金沢地方裁判所 昭和42年(ワ)59号 判決 1968年3月11日
原告
泉清
被告
国永賢三
ほか一名
主文
被告国永賢三は原告に対し金一、一五八、二六三円及びこれに対する昭和四〇年一二月一五日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告国永賢三の負担とする。
この判決は第一項にかぎり仮りに執行することができる。
事実
一、請求の趣旨並びに答弁
原告訴訟代理人は、被告両名は原告に対し連帯して金三、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四〇年一二月一五日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの連帯負担とする旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、被告両名訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求めた。
二、請求原因
(一) 被告国永は石せ一四三六号六屯貨物自動車の所有者、被告橋本は同自動車の運転者である。
(二) 被告橋本は昭和四〇年一二月一四日午後六時頃の降雨中、右貨物自動車を運転し、七尾市、穴水町間の県道を七尾市方面から穴水町方面に向けて時速四〇粁以上の速力で東進中、鹿島郡中島町宇外ロ一六番地先に差掛つた際、右県道北側に駐車中の中型貨物自動車の南側を通り抜けようとしたのであるが、このような場合には対向車等のないことを確め、もし対向車がある場合には自車を中央線から右側部分にはみ出さないようにして通過するか、対向車の通過を待つて通り抜けるべき注意義務があるのにかかわらず、不注意にも何らの措置を講ずることなく漫然と県道の中央線より右側部分に約二米はみ出させ、減速、減光することもなく進行した過失により、折から時速二五粁の速力で県道南側を西進中の原告の原動機付自転車を被告の運転する貨物自動車の右前辺りに衝突させ、よつて原告に対し加療一年以上を要する頭蓋骨々折、右鎖骨、右第一、二肋骨、右第五中手、右第四・五基節骨の各骨折、右眼瞼、右鎖骨部、右第四、五指、右側頭部各挫創の傷害を負わせた。
(三) そのため原告はつぎのとおりの損害を受けた。
(1) 創傷治療費 金六四六、七八八円
右は原告が神野病院等で治療をうけた費用である。
(2) 休業による逸失利益 金三八五、三五六円
右は原告が傷害で休業した一ケ月金三二、一一三円の割合による一ケ年分の逸失利益の損害である。
(3) 後遺症による逸失利益 金五、一六九、〇二五円
原告は本件事故のため、右眼の視力が〇・〇六以下となり(障害等級七級)、右手の人、中、薬指がその用を廃し(同等級六級)、右上肢の一関節の機能に著しい障害を残し(同等級八級)、一人前の仕事ができない不具者となつた。昭和三五年一一月二日労働省労働基準局通達による別表第一の労働能力喪失表によればその労働能力喪失率は九二%となるところ、原告の余命年数を二二・四一年とすれば、その逸失利益は計金五、一六九、〇二五円となる。
(四) 被告国永は被告橋本の運転した本件加害車の所有者であるから、自動車損害賠償保障法第二条第三項、第三条の保有者として本件損害を賠償する責任がある。
(五) 原告の前記損害は合計金六、二〇一、一六九円となるところ右金員のうち金三、〇〇〇、〇〇〇円を本訴において請求するものである。
三、被告の答弁
(一) 請求原因(一)項の事実は認める。
(二) 同(二)項中、被告橋本が原告主張の日時に、原告主張の道路(但しこの道路は国道二五九号線である)を穴水町に向つて貨物自動車を運転し、原告主張の場所で駐車中の中型貨物自動車の南側を通り抜けたこと、同被告の貨物自動車と原告操縦の原動機付自転車とが右道路上において衝突したことは認めるが、原告の原動機付自転庫の速度、原告の負傷の部位・程度は不知、その余の事実は否認する。
(三) 同(三)項の損害は不知
(四) 同(四)項は否認する。
(五) 被告橋本は本件事故当時時速三〇ないし三五粁で貨物自動車を運転してきたが、前記駐車中の中型貨物自動車を通り抜けるときには時速三〇粁以下に減速し且つ減光して右国道の中央線より左側(北側)部分を進行して通り抜け、直ちにハンドルを左(北側)に切つたところ、原告の原動機付自転車が突如として右道路の中央線をはみ出して北側に突入し被告橋本の操縦する貨物自動車の前照灯附近に衝突したのである。右のように本件事故は被告橋本の過失によるものではなく、原告の過失によるものである。
(六) 仮りに被告らに損害賠償責任があるとしても、原告の右過失は損害賠償の額を定めるについて斟酌すべきであり、また原告は自動車損害賠償保険金三〇〇、〇〇〇円を受領しこれをもつて治療費に充当しているので、この金額は賠償額から控除されるべきものである。
四、証拠関係〔略〕
理由
一、被告国永が石一せ一四三六号六屯貨物自動車を所有し、被告橋本がその運転者であること、被告橋本が昭和四〇年一二月一四日午後六時頃降雨中、右貨物自動車を運転し七尾市、穴水町間の道路を七尾市方面から穴水町方面に向けて進行し鹿島郡中島町字外ロ一六番地先にさしかかつた際、右道路北側に駐車中の中型貨物自動車の南側を通り抜けようとしたとき、右被告橋本の運転する貨物自動車と、折から穴水町方面から七尾市方面に向けて進行してきた原告の原動機付自転車とが衝突したことは当事者間に争がない。
そして、〔証拠略〕によれば、右事故により原告は、頭蓋骨々折、右側頭部右眼瞼、右鎖骨部、右第四、五指挫創、右鎖骨、第一、二肋骨、右第五中手骨、右第五、四基節骨折等の傷害を負つたことが認められる。
二、〔証拠略〕を綜合すると、本件事故のあつた道路は国道二四九号線で、車道の舗装部分の幅員が七米、路肩の非舗装部分の幅員が〇・五米あり、本件事故現場附近に前記中型貨物自動車が右道路の北側の端に駐車していたこと、被告橋本の貨物自動車が右中型貨物自動車の南側を通り抜けたが、その際一旦右道路の中央線より右側(南側)部分にはみ出して通行しさらに中央線の左側(北側)部分に戻ろうとした瞬間、原告の原動機付自転車が被告橋本の貨物自動車の右前部に衝突したこと、右衝突時には被告橋本の貨物自動車はその右前部が道路の中央線附近に、その右後部が中央線よりやや右側(南側)部分にはみ出ていたこと、被告橋本の貨物自動車が前記中型貨物自動車の南側を通り抜けるとき時速二五ないし三〇粁に減速し、ライトを下向けにして減光したことなどの事実が認められる。しかしながら、被告橋本の貨物自動車が右中型貨物自動車の南側を通り抜ける際に、どの程度中央線の右側部分にはみ出したか、したがつて対進してきた原告の原動機付自転車とすれちがう際通常必要とされる間隔を欠くほど中央線より右側部分にはみ出したかどうか、これを確認する資料がないし、その他被告橋本が注意義務を怠つたと認めるに足る資料がない。結局において被告橋本の過失を認めることはできない。
むしろ、前掲各証拠によれば、本件事故当時原告が原動機付自転車に乗つて前記国道を穴水町方面から七尾市方面に向つて西進していたが、当時降雨はげしく、しかも向い風で運転のしにくい状況にあつたこと、原告はかなり前方に被告橋本車のライトに気付いていたが、同車が目近にせまつて前記中型貨物自動車の南側を通り抜けようとした際、それが急に飛び出してきたように感じ一瞬動揺したことなどの事実が認められ、これと前記衝突地点が前記国道の中央線附近であることなどを考え合わせると、原告は前記のような運転しにくい状況下とくに前方を注意しなければならないのにこれを怠つたために、被告橋本車が前記駐車中の中型貨物自動車の南側を通り抜けて中央線の右側部分にはみ出してきたのに動揺し、慌ててハンドルの操作を誤り本件衝突事故を起したものと認めるに難くない。そうすれば、本件事故の原因の一つが少くとも原告の右過失にあるといわざるを得ない。
三、そこで、被告両名の損害賠償責任の有無について判断するに、まず前記のとおり被告橋本に過失があつたと認めるに足る資料がないので、同被告に対し本件事故によつて原告の被ることのあるべき損害について賠償責任を負わせることはできない。
つぎに、被告国永が本件事故の貨物自動車の運行供用者であることは、同被告が右車の所有者で被告橋本がその運転者であるという当事者間に争ない事実並びに被告橋本本人尋問の結果に徴し明らかである。したがつて、被告国永は自動車損害賠償保障法第三条但書の免責事由のないかぎり本件事故によつて原告の被ることのあるべき損害(身体傷害による)につき賠償する責任がある。
ところで、右法条但書の免責事由の存否について検討するに、なるほど前記貨物自動車の運転者である被告橋本の過失を認めるに足る資料はなかつたのであるが、このことは被告橋本が運転上の注意義務を全く怠らなかつたことを意味するものではない。前記のとおり、被告橋本の運転する貨物自動車と原告の原動機付自転車との衝突地点が前記国道の中央線附近であることは確認できるが、右貨物自動車が前記駐車中の中型貨物自動車の南側を通り抜ける際、被告橋本において原告の原動機付自転車が同被告の運転する貨物自動車と安全にすれ違うだけの間隔を保つたかどうかその通り抜けの状況を確認する資料がなく、また本件事故が不可抗力であつたと認めるに足りる資料もない。被告橋本本人尋問の結果中右両車がすれ違うに通常必要とされる間隔を保ちながらわずかに中央線の右側部分をはみ出して駐車中の中型貨物自動車の右側(南側)を通り抜けた旨の供述部分はたやすく措信できない。
そうすれば、被告橋本が無過失であつたと確認することはできず、被告国永はとうてい損害賠償責任を免れることはできない。
四、原告の損害について
(一) 〔証拠略〕によれば、原告は本件事故による傷害のため、治療費として計金六四六、七八八円の損害を被つたことが認められる。
(二) 〔証拠略〕によれば、原告は馬車ひきを業とし一日の収益約三、五〇〇円、一ケ月平均約二六日稼働していたが、本件事故のため事故の翌日である昭和四〇年一二月一五日から昭和四一年九月末頃まで仕事ができなくなつたことが認められる。原告は、一ケ月金三二、一一三円の割合で一ケ年の休業による損害計金三八五、三五六円を計上しているが、右休業期間は別として右主張の月間収益は前段認定の数値からみて決して不当な金額とは認められないので、原告は前記期間(昭和四〇年一二月一五日から同四一年九月末日まで)の休業によつて計金三〇七、二一四円の損害を被つたものと認めるのが相当である。
(32,113円×(9+17/30)=307,214円)
(三) 原告人尋問の結果によれば、原告は前記負傷の結果現在右手が充分上にあがらず、右手指の親指、中指を除く他の指が曲らない状況にあり、昭和四一年一〇月から従来の馬車引業を廃めて保険の外交員として稼働し月収平均二三、〇〇〇円を得ていることが認められる。したがつて、原告は前記障害のため月平均九、一一三円の減収となつた(前記32,113円-23,000円=9,113円)と認められる。〔証拠略〕によれば、右昭和四一年一〇月当時の原告の年令は五〇才で、厚生省発表の第一一回生命表によるとその平均余命は二六、〇三年であることが認められ、これらを基礎にして考えるとき原告の爾後の稼働可能年数を一〇年と認めるのが相当である。そこで、原告の逸失利益を複式ホフマン式によつて算出すると
(9,113円×12)×7.9449 4948=868,827円(円未満切捨)
金八六八、八二七円となり同額の損害を被つたものと認めるのが相当である。
以上の各損害を合計すると金一、八二二、八二九円となる。
五、被告の抗弁についてみるに、
(一) すでに説示したとおり本件事故は原告の過失がその一因をなしているものと認められるので、損害の賠償額を定めるについてこれを斟酌すべく、被告国永の原告に対する前記損害の賠償額は金一、八二二、八二九円の十分の八、金一、四五八、二六三円をもつて相当とする。
(二) 原告並びに被告橋本各本人尋問の結果によれば原告は自動車損害賠償保険金三〇〇、〇〇〇円を受領し、前記治療費支払の一部に当てたことが認められるので、これを右損害賠償額から控除すべきものとする。
そうすると、結局被告国永の原告に対する賠償額は差引金一、一五八、二六三円となる。
六、そこで、原告の本訴請求は被告国永に対し金一、一五八、二六三円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和四〇年一二月一五日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 至勢忠一)